最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)57号 判決 1969年10月17日
上告人
本間禹夫
上告人
紺野勝
右両名代理人
伊藤俊郎
被上告人
半谷ノブイ
代理人
三島保
三島卓郎
主文
原判決を破棄する。
本件を仙台高等裁判所に差し戻す。
理由
上告人ら代理人伊藤俊郎の上告理由一および二について。
被上告人の夫半谷忠は昭和二八年二月二八日訴外太田真像から金一〇六、〇〇〇円を弁済期同年四月三〇日と定めて借り受け、訴外合資会社中村商店が右債務につき連帯保証したが、半谷忠は期限までに右債務を履行しなかつたので、右合資会社がその支払の請求を受けるに至り同合資会社代表社員青田甚一郎は、同年一〇月一〇同頃被上告人列席のもとに、半谷忠に対し、同人の弟半谷経から金を借りて太田真像に返済するよう申し向けたところ、半谷忠は、これを了承し、青田甚一郎に対し金策を依頼し、被上告人は本件不動産の登記済権利証と自己の実印とを半谷忠を介して青田甚一郎に交付したものであることは、原審の適法に確定した事実である。
ところで、特定の取引行為に関連して印鑑を交付することは、特段の事情のないかぎり、代理権を授与したものと解するのが相当であるところ、被上告人は、その夫である半田忠が太田真像に対する債務を弁済するためその金策を青田甚一郎に依頼する場に立ち会い、これら一切の事情を承知のうえ、本件不動産の登記済権利証と自己の実印とを半谷忠を介して青田甚一郎に交付したものであることは、右認定事実からうかがわれるのであるから、他に特段の事情の認められないかぎり、被上告人は青田甚一郎に対し、半谷忠の債務の弁済のための資金の借人について、本件不動産を担保とすることを承諾し、右担保とすることについての代理権を授与したものと解すべきである。しかるに、右特段の事情についてなんら判示することなく、被上告人が青田甚一郎に右登記済権利証および実印を与えた趣旨は、青田甚一郎が半谷経から金融を得た際、そのひきあてのため半谷経に対し預けておくというだけのものであつて、代理権を与えたものではないとした原判決には、審理不尽、ひいては理由不備、理由そごの違法があるといわなければならない。論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
よつて、右の点について更に審理を尽くさせるため、原判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻すこととし、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)